深夜の高速の車中、疲れと眠気を紛らわす為に摂るコーヒーとタバコと実りのない会話が、時間とともに不味くなっていくのを感じながら、明け方辿り着いた先は驚く程人通りの多い都市の歓楽街だった。
出勤する人々が足早に過ぎ去り、
行為を終えた人々が静かに岐路に付く休日の朝。
不自然な出で立ちと挙動でちぐはぐと街を歩き、どうにか目的の建物のそばまでは辿り付く事ができた。
しかし、あまりにもわかりやすい建物の外観とは裏腹に、入り口がどこにあるのかが全くわからないと気がつく。
いや、もともと入り口などという概念は廃墟には存在しなのかもしれないけれど、それでも偉大なる先人が何かしらのヒントを残してくれているものだということを以前に身を以て経験した僕らは、彼らの痕跡を必死で探し回った。
けれど、トランプのクイーンがモザイク画で埋め込まれたハイセンスな建物は背の高い塀で囲まれ、その周囲にあるのは地方都市特有のだだっ広い駐車場と、どこに続くのかわからない森、そして黒服が眠そうに立つ娯楽施設だけで、目的地の女王様は僕たちを控えめに見下していた。
塀で囲まれたその場所に忍び込む術がわからず、建物のまわりをただぐるぐると回るしかない僕らは、やがてそのどれもが不正解である事を学び、半ばやけくそで森の中へと歩を進めた。
草をなぎ倒し森に分け入ってすぐ、さっきまで侵入を拒んでいた壁の背が突然低くなり、ホッ胸をおろしその中へ飛び込んだ。
カビ臭い真っ暗な廊下を、携帯の明かりを頼りに進むと、突然に開けた視界には早朝の優しい光が差し込んできた。
その建物の機能からすれば当たり前と言えるのかもしれないけれど、外観の作り同様に特徴的な内装は、壁にかかれた落書をひどく滑稽なモノだと思わせるだけの美しさを兼ね備えていた。
ガラスや石膏、コンクリや天井、記憶や時間。
床面にはそんな無数の破片が散らばる。
特徴的な窓枠が異空の景色を切り取って得意げに見せてくれた。
ふと、建物の脇の駐車場から、人の気配と大きな音がして息をのむ。
それは愛を育んだであろう二人を運ぶ車の、タイヤと砂利とが擦れ合う不吉な音だった。
過ぎ去るのを待ち、時間の経過を確かめ、吹き抜けの二階へと階段を上った。
かつて、何人もの人々が用を足したであろう客室の湿り気。
これから来る短い未来の成功を祈ったであろう受付の不純物。
どこも今となってはその意味を失い、ただただ美しい場所となる。
約3時間、緊張と適度な興奮は視覚の力を伴って脳を存分に刺激してくれた。
時刻は正午、来た道を戻り、ひらけた駐車場の地面。
轟音に聞こえた駐車場の砂利を自分たちの足で踏みしめると、それはひどく頼りない音をだし、ふと振り返るとモザイク画の女王がすこし笑いかけた様な気がした。