6月のイタリアに注ぐ穏やかな日差しと、心地よい鉄道の揺れに運ばれて、ヨーロッパ最古の大学を持つボローニャの街を訪ねた。
荘厳なルネッサンス、バロック建築の合間を、中世から残る柱廊がどこまでも続く街並。その一面が、くすんだ赤い煉瓦色に統一された情景は、まるで時代さえ移動してしまったかのような錯覚を見せる。
今から1000年の昔、このボローニャの街に産まれたヨーロッパ最古の大学は、当時のイタリア都市国家特有の自由と意思を宿し。その広大な歴史のうちに、ペトラルカ、ダンテ、ガリレオ・ガリレイ、コペルニクスなどの著名な才人たちが名を連ねた事で知られ。
- ペトラルカ
- ダンテ
- ガリレオ・ガリレイ
- コペルニクス
そんな偉大なる先代たちから受け継がれる知への探求心を、次の時代へと繋ぐ学生たちの街の中で、当時のままにひっそりと佇むボローニャ大学の旧校舎 " アルキジンナージオ宮 / Palazzo della Archiginnasio " へと入り込んだ。
荘厳な柱廊は静寂と美しい光に包まれ。
時間の持つ重みに自由を奪われる。
壁一面に刻まれるのは、教授たちの偉業の証と学生たちの記録。
そのレリーフの一つ一つが、9世紀に渡る歴史の厚みを携える。
その全てを丹念に目で指でなぞりながら、そんな美しい装飾に囲まれた階段を、一歩一歩噛み締める様に登った。
二階の回廊を折れ、木製の重たいドアの前に立ち。
すっと、一歩足を踏み入れれば、そこに広がるのは劇場空間。
床も、壁も、天井も、そのすべてが木から成る大教室。
その壁面は、古代からの有名な医学者の立像や、大学の著名な学者たちの厳かな胸像たちで彩られ。
かつて教授が立ったその教壇の両脇には、ひっそりと厳格に " 皮を剥がれた人 " と呼ばれる二人の立像が佇み。
その天井を埋め尽くす様に、アポロ神を模した星座が細密に表現される。
そんな統一された美しい木色の空間にあって、その中央にただ一人座る真っ白な大理石の解剖台。
かつて聴衆の目を釘付けにしたであろうその場所を、ただじっと眺め続けていると。
時間の流れと共に、窓が取り込む光がその顔付きを変える。
以来、この愛すべき空間へ毎日足を向け、五感の全てで味わい続けること4日間。
1637年、建築家アントニオ・レヴァンティの設計に寄って完成された " 解剖学大階段教室 "。
そこには全てが木から出来た完璧な空間を誇る解剖学教室が眠り。
医学史上の神々が、今も悠然と立ちつくす。
永く憧れ続けたこの場所は、想像を超えて完全で完璧で。
ガレノスの像に再訪を誓い、この街を後にした。