セーヌ川を超え、パリの中心部から電車で南下すること20分。
人々が行き交う活気ある市街地の地下へと続く、狭い螺旋階段を、一段、また一段と降りていく。
地下特有の湿気と、地面に溜まる地下水、そして積み上げられた膨大な数の骨たち。
1500年以上の昔、かつて採石場だったその場所は、1785から100年の歳月をかけ、パリ市内の共同墓地へと葬られていた600万体もの骨たちが移された " Les Catacombes de Paris / パリ・カタコンブ " へと変化を遂げた。
膨大な数の人間の骨々は、まるでどこまでも続く城壁の様に、ただ静かに積み重ねられ。経年変化によって蝕まれた骨面と、弔いを刻んだ石盤が、暗闇の中で静かに浮かび上がる神秘的な美しさをこの場所は今に留めていた。
一人の人間がやっと通る事の出来る程の、細く狭い螺旋を静かに下る。
点々と小さな光が灯る回廊がどこまでも続いている。
天井に黒いペンキで描かれた大雑把な指示線に導かれるように歩を進めると、壁面に刻まれた美しい文字や、湿っぽい石像建造物が時折そのすがたを見せる。
ふと階段の先に目をやると、そこにはかつて膝元まであった地下水が顔を覗かせていた。
美しい石垣のアーチをくぐり、奇妙な模様の描かれた壁を曲がる。
やがて、どこまでも続く、骨。
わずかに届く光は、骨壁の輪郭だけを、そっと浮かび上がらせる。
天井から落ちる水滴によって、削り取られた水だまりに足をとられながら。
骨壁に両脇を囲まれる道を、永遠と進み続ける。
開けた空間で、一瞬息を飲んだ。
暗闇に唯一生きる生物の緑と腐敗した壁、そして人骨。
ここは、過去眠りについた人々を、今日目覚めている僕たちが、そっと静かに眺める場所で。
そんな東西の死の捉え方・感覚の違いを改めて感じながら、来た道とは別の螺旋を、一段、また一段と登り岐路についた。