適度な興奮と眠気とを適当な割合でブレンドした時に抽出される、一時的高揚感に支えられ、次の目的地へそそくさと車を走らせた。
Ruins / 廃墟特徴のない田園と山間を縫うパッチワークの様なジグザグとした道程は、あまりにも人目に付きすぎる建物へ僕たちを連れて行った。
青々と茂る稲が四方を囲み、正面には広々とした駐車場を備えるその場所は、1キロ先からでも目視できそうな程筒抜けの立地で。
それは侵入の困難さが遠目からでもわかる嫌みに明るい外見をしていた。
建物の前まで近づいては離れてを繰り返しながら、目的地の様子を観察して入口に見当をつけ、一度人目のつかない場所に車を停めると、今度は歩いてその場所へ向う。
自然界に混じる人工的不純物の様に、薬品をかければ簡単に反応しそうな異物の僕たちは、それでも極力目立たない様務めながら当たりをつけた裏口へようやくたどり着いた。
ドアノブに手をかけ、そっとハンドルを回す。
するりと味気なくそれは回り、ゆっくりとドアが開かれる。
息を殺して建物へと入り込む。
そこには、時間と災害とが奇跡的に生み出した異常な空間が広がっていた。
均一に並べられた窓から強烈に差し込む日の光を避け。
身をかがめ、ゴキブリの様にコソコソと建物を移動しながら、一番奥にある披露宴会場へと向かった。
そこは、廃退と爆発の爪痕とが奇跡的に混在する場所で、
壁も天井も鉄骨も地面も、朽ちたモチーフが、後に焼けただれ出来上がったテクスチャーは全てがあまりにも美く。
僕たちは言葉を失うことの意味を理解した。
吹き飛んだ天井から指す光は、さっきまで見ていた日常の光とはその種類を異なり。
落とす影もまた、別次元へ全てを飲む空間のねじれの様に魅力的だった。
生命の存在だけが、時間の流れをかろうじて僕たちに教えてくれる。
あまりの美しさにその部屋から動けず、幾つもの実験を繰り返した後、別の部屋へ移動を重ねながら行き着いた先は、割られた瓶が意味深げに並べられた奇妙な部屋だった。
その窓から指す光は、また少し首を振り。
気がつけば太陽は西に傾き長かった一日の終わりをささやかに伝えてくれた。
のそのそと建物の外へ出ると一面に広がる田園風景がどこまでも続き。
さっきまで自分たちが目にしていた情景など、まるで冗談だとでもいうかのような退屈に満ちていた。