ヨーロッパ最古の手術台と医学の歴史
ロンドンブリッジ駅から徒歩5分、星の数程あるロンドンの博物館の中でも一際奇妙な存在感を放つこの場所では、独自の運営によってもたらされる謎めいた蒐集品や医療アンティークの数々。
そして、ヨーロッパ最古の手術室・手術台を観る事の出来る極めて貴重な空間 " Old Operating Theatre, Museum and Herb Garret " を訪れました。
驚異の部屋
一見、入り口だとは思えない程の小さなドアの合間に身を屈めて潜り込むと、侵入者を威嚇するかの様な急な勾配の木製螺旋階段が待ち受けています。
すれ違う事も困難な狭い螺旋をぐるりと昇り、辿りついた二階の受付で支払いをすませると、ようやく博物館内部へと入り込むことができます。
医療系の博物館だと想像して歩を進めると、まず待ち構えるのは所狭しと奇妙奇怪なモノモノを並べ上げた " Cabinet of Curiosities " 過去にも取り上げた " Wunderkammer / 驚異の部屋 " のキャビネット版であるこの棚の前に唐突に立たされ、早々この博物館独自の奇怪さを見せつけられることとなります。
そしてその先に待つのは、まさにヴンダーカンマー顔負けの驚くべき品々が無秩序に並べられた展示スペース。
人体模型、薬品瓶、医療の奇妙な道具や標本、薬などが強烈な密度を持って圧倒してくるかと思えば。
窓際のガラスケースに整然と並ぶアンティーク医療器具と資料の数々。
或は、医療系の標本達が不可解なライティングで目を悦しませてくれます。
薬草や医学関連のモチーフの並ぶ棚、あるいはただの食品置き場。
こうして、すっかりこの博物館に主導権を握られたところで、更に奥へと進むと、そこにはそれまでの混沌とは打って変わって、静寂一色。
そして、全てが木で作られたオペ室。
過去に幾度となく様々な本の中で見てきた、当時の解剖シーンとそれを固唾をのんで見守る群衆の絵。
そんな絵の中の歴史的光景がこの場所には残っていて。
静寂、沈黙、観察。
かつてそこに在ったであろう観察者達の好奇心、その場所で押し進められた医療の進歩の一端、あるいは、当時のオペ室に満ちていたであろう強烈な香りまでもが、静けさの中にまだ少しだけ残っている様な気がして。
その場所からしばらく動く事が出来ませんでした。
計算する事では辿り着けない感覚的なディスプレイ、不思議な後味、そして素晴らしいモチーフと空間に、多くの刺激をいただきました。