グリニッジ旧王立天文台
「時間」の基準の場所、「時間」の歴史の話
1675年、イングランド国王チャールズ2世の指示により、イギリスの代表的建築家クリストファー・レンの設計によって完成した、世界でも最も名の知れた天文台の一つ " グリニッジ旧王立天文台 / The Royal Greenwich Observatory "。
グリニッジ標準時を産んだ場所。
或は、経度0度の場所。
そんな風にして広く世界に知られるこの天文台は、1958年の移転を行った後に博物館として公開され、人類の獲得した「時間」と、その正確な測定への歴史を観る事ができる場所でもあります。
大航海時代、当時の航海術を向上させるために必要不可欠なモノ、それが「時間」でした。
やがて、七つの海を制覇する大英帝国の航海術の礎を築いた一つの要因は、時間の正確な測定にあったのです。
「時間」の歴史
イギリス、スペイン、フランス・・・ヨーロッパ各国が未だ観ぬ地を求め船を出した大航海時代、しかし当時の航海技術では運に任せた危険な航海が多く、新たな土地の発見の裏には多くの海難事故がありました。
外洋での航海には正確な緯度と経度の計測が不可欠です、なぜなら「緯度」と「経度」この二つが揃って始めて、私たちは私たちがこの地球上のどのポイント在るのかを知る事が出来るからです。
※ 写真はグリニッジ天文台内部の一般向けの観察室。
※ テーブルの上に広げられた当時の世界地図。
そして、見渡す限りが海の上である航海の中、緯度の目安となったのは天に輝く星々でした。人々は北極星の位置や見える角度から緯度を割り出す事ができたのです。
しかし、もう一方の「経度」の測定には正確な「時刻」を知る必要がありました。
「正確な時間を知るコト」
今では当たり前に行われるこの行為は、大航海時代に置いては最も重要な課題の一つだったのです。そして当時、海洋国家として世界への進出を図る英国が、そんな航海の支援を目的として作り上げたのがこのグリニッジ旧王立天文台でした。
※ 敷地内には子午線が引かれ、建物には標準時を示す時計が掲示されています。
そんな歴史を象徴する様に、世界の時間の基準とも言える時刻が刻まれる時計が、正門には掲げられています。
博物館内部に入ると、天体観測の道具や精巧な天体模型など、天文学史・光学史上貴重なものが多数展示されています。以前紹介したハーシェルが天王星発見の際に使用した反射望遠鏡もこの博物館の敷地内で観る事ができます。
さて、話を当時の船上に戻します。
当時の船には、正確な時間を伝える為に、" Timekeeper / タイムキーパー " と呼ばれる人間が乗り込み、常時正確な時間の観察を行い報告していました。そしてそんなタイムキーパーの仕事の為の道具、それが私たちの良く知る「時計」です。
そのため、船上での持ち運び安さと時間の正確さを求め、タイムキーパーの持つ時計の改良が幾度となく行われていくこととなります。
そしてこの博物館では、そんな各時代の様々な時計達の歴史を観る事ができるのです。
※ 太陽の光によって時間を知る日時計。
※ 持ち運び易さは、航海に置ける重要な要素であったため、サイズの改良が常に行われます。
※ 柱に掛けの時計。
※ 空気の影響を減らす為に、ガラス内で時間を刻む時計達。
このようにして、私たちの良く知る時計は時代と共に改良されていきます。
「時間を知る」というコトが、船上の人々の生死をも左右する極めて重要な意味を持っていたこの時代。
今、私たちの周りを漠然と過ぎ去る時間と、彼らの周りに流れていた時間とでは、何か少し違っていたのかもしれません。
そして、この博物館の一部屋には、そんなかつての航海を味わった膨大な数の時計達が今も大切に保管されていました。
