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フラゴナール博物館

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解剖室で産まれた芸術たち。プレパレーション標本と最古の獣医学校

世界で最も古い獣医学校の一つである " The École Nationale Vétérinaire de Maisons-Alfort / アルフォード獣医学校 "。

その敷地内には、19世紀〜20世紀にかけて制作された膨大な動物の解剖標本の数々と、フランスの解剖学者であり、この学校の初代解剖学教授を務めた " Honore Fragonard / オノーレ・フラゴナール "の手で制作された、有名なプレパレーション標本を展示する " Musée Fragonard d'Alfort / フラゴナール博物館 " があります。

解剖の授業用に保存してあった幾多の死体に注射をし、彩色を施し、それらの死体をまるで芸術的オブジェのように作り変えてしまった彼のプレパレーション標本は、まさに解剖芸術で。

フラゴナールの作り出したこれらの美しい標本達は、やがて芸術好きの金持ちによって解剖室から持ち出され、「画廊」や「特別な陳列棚」へと並べられ、鑑賞されることとなるのです。

オノーレ・フラゴナール

1732年、フランスのグラッスに生まれた解剖学者である、" Honore Fragonard / オノーレ・フラゴナール " 。

18世紀、ロココ時代を代表する有名な画家 " Jean Honoré Fragonard / ジャン・オノレ・フラゴナール " のいとこにあたる彼の芸術的才能は、病院の解剖室の中で花開きました。

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医学を学んだ後、ルイXV世によって作られたパリで最初の獣医学校である、アルフォード獣医学校の最初の解剖学教授となると、数千もの解剖を行い、標本制作へ注力することとなるのですが。同時にその異常なまでの解剖標本への執着心は、人々から気の触れた男だと見なされる要因ともなり、そのわずか6年後フラゴナールは学校からの追放を余儀なくされます。

ここは、そんな彼が教えた6年の軌跡と、その他膨大な獣医学校の動物の標本を展示する場所で、一見、理路整然と美しく並べられているのは、どれもめったに観る事の出来ない奇妙奇怪な標本たち。

  • フラゴナール,プレパレーション標本,博物館,アンティーク,フランス,パリ,オレーノ※ 馬の模型やその部位を納めたショーケース
  • フラゴナール,プレパレーション標本,博物館,アンティーク,フランス,パリ,オレーノ※ 異常な数の馬類の口部分のサンプル群
  • フラゴナール,プレパレーション標本,博物館,アンティーク,フランス,パリ,オレーノ※ 動物の臓器の乾燥標本を納めたショーケース
  • フラゴナール,プレパレーション標本,博物館,アンティーク,フランス,パリ,オレーノ※ 巨大なカタツムリの模型

さらに、羊・ニワトリ・ヤギなど、奇形として産まれた様々な家畜の標本の物量に目を見張ります。

  • フラゴナール,プレパレーション標本,博物館,アンティーク,フランス,パリ,オレーノ※ 頭部の無い羊の子供
  • フラゴナール,プレパレーション標本,博物館,アンティーク,フランス,パリ,オレーノ※ 8本の足を持つ骨格標本

さらに珍しかったのは、様々な病気で出来る結石のコレクションを納めたショーケース。中に飾られる色、形、千差万別の苦しみを産んだ石の美しさに惹かれます。

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そんな奇怪な標本の間をすり抜けると、その奥にある薄暗い展示スペースへと辿り着きます。

学校追放の後、自宅で標本の制作を続けながら上流階級の貴族達にそれらを売って生計を立てていたフラゴナールは、1793年、いとこであるジャン・オノレ・フラゴナールの手によって、" Jury National des Arts " のメンバーとなると、その後の数年をかけて自らの作品を再び集めようと試みました。

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しかし、彼のほとんどの作品は行方が知れず散り散りとなっており。フラゴナールがこの学校の教授であった期間に制作した約700に登る標本の中で、今に残るわずか21体だけがこの部屋の中に残されているのです。

皮膚を剥がされて覗く繊細な血管と筋肉。

死体へ施された色彩と200年の歳月の加えた経年変化。

それらが混然となって、強烈な力を伴って、見る者の目を奪い、或は拒みます。
そこに向けられたフラゴナールのエネルギーと執着心はきっととても真っすぐなものだったはずで。
客観性の中ですら、醜悪の中に際立つ美をこの部屋の中で感じてしまいます。

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